+CROWN+


イリーディアの内部調査は始まったばかりではあるが、すでに様々な成果を上げている。
もっともわかりやすい成果は高出力の魔導球や、グラウンドシップそのものの相次ぐ発見である。
またその製造法についても、見つかった資料から研究が進められている。

さてもう一つ、単純に人々を喜ばせたのが各地の地図の発見でだった。
外界の地図はもちろんだが、各地に散らばっている施設――現在では遺跡と呼ばれるものの地図も、
その中に眠る、現在では手に入れようのない知識、技術、品々を求める人々には嬉しいものだった。
これまで、すでに発見し尽くされたのではと考えられた遺跡であったが、大陸のあちらこちらに、
まだ遺跡発見の可能性があることが判明した。
そして、それは可能性だけで終わらず、すでにいくつかの新しい遺跡が実際に発見されている。

かくて、大陸は遺跡ブームに乗る。


「こりねーなぁ」
極彩色ののぼりが群れをなしているドーグリを見て、ディザがぼやいた。
この村も再び遺跡ブームに乗っている。イリーディアで発見された資料から新たに発掘された遺跡は、
村の近く……とは言えないくらいの距離があったが、遺跡から一番近い村がドーグリであったため、
このお祭り騒ぎである。
「大丈夫よ、一度痛い目を見てるから」
村の出身であるシンディは特に興味もなさそうにのぼりを眺めている。
「お祭りは楽しむけど、踊らされはしないわ」
「さすがです、シンディさん。このサヴィアー…」
「さて、宿を取ってさっさと調査ね」
長々と続きそうなサヴィアーのシンディへの賞賛をユミが断ち切った。
日は随分と傾いて、村はそろそろ夕飯の準備でいい香りのし始めるころだ。
「この様子だと宿代も値上がりしてそうだのう」
「あの名物料理も食べられないかなあ……」
「あれは正直勘弁だけど」
ルナンがつぶやいて、ディザがそれにかくかくと頷いた。二人もこの村でその料理を食べたのだが……
ナックと同じ感想は持てなかった。きょとんと見るナックに、二人でややこわばった笑みを返す。
「じゃ、行きましょうか」
気を取り直してかけたルナンの声に7人が歩き出す。夕日に照らされ、影が長く伸びていた。



村長らの暖かくも少々うるさい見送りをあとに、ルナンたちは翌朝、さっそく遺跡へと発った。
新しく見付かった遺跡は、元シューティングスター本部があった山を、さらに奥へ進んだ山の中である。
そしてこの遺跡、イリーディアで発見された地図によると――。
「宝物庫だなんて、ゴージャスな響きよね」
「なんか、やな予感すんだよな……」
遺跡に入っての正反対の感想は、ユミとディザである。ルナンはナックと顔を見合わせ、くすりと笑った。
「いや、宝物庫っていったら、確実に番人みたいなやつがいるだろ?」
「それはお願いするわ」
「わしも今回はちょっと腰がなあ」
ユミとライゼルの発言にディザがため息をつくと、その後ろではサヴィアーがなにやらがんばっていた。
「シンディさんは僕がお守りしますから!」
「ありがとう」
「おい、その辺にしとけ……来るぞ! ブラッドソードだ!」
和やかな会話をしていたパーティに、血塗られた狂刀が襲い掛かってきた。


そして勝負はあっさりとついた。負傷者は一名のみ。
「……で、かばってやられたと」
「リカバライズ」
「面目ない……」
腕を切られたサヴィアーをナックが治療する。
「まあ、見上げた根性じゃな」
確かに、怪我をしたのはよくないが、それでも言ったことを実行するのは見上げたものだ――などと、
ルナンは一瞬思ったものだ、が。
「ごめんなさい」
「いやいやいやいいや! シンディ殿にけががないのが一番です!」
たった一言に舞い上がったサヴィアーを見て、ルナンの感心した気持ちはしゅるしゅるとどこかへ消えた。
閉じきっていた遺跡の埃っぽい空気に――それだけではないかもしれないが――こほんと咳払いをして、
ルナンは他の仲間とともに先へと進んだ。


遺跡には最初に襲ってきたブラッドソードをはじめとした、刀剣類そのものをかたどったもの、もしくは
武器を使うモンスターが多く現れた。それらに時折苦戦しながらも、ルナンたちは地下2階で遺跡内部の
案内図を見つけるなど、順調に遺跡の探索を進めていった。
しかし、地下3階から4階へと下る途中で、ひどく不吉な音をルナンは聞きとめた。
「ねえ、なにか……嫌な音がしない?」
「ああ……なんていうか、山ほどいそうだな、下」
ざっざっと、何かが行進するような音が階段の先から聞こえてくる。
「先ほどの案内図によると、この下の、もう一つ下の階に目当ての部屋があるようなんですが……」
「番人、がいるのかな?」
「俺、先にちょっと見てくるわ」
偵察を買って出たディザが階段を降りていく。
「気をつけて」
手を上げて答えたディザはすぐに階段の下へと見えなくなった。
彼の帰りを待つ間に、ルナンたちは傷の回復やアイテムの整理を行うことにした。
「大人数だと楽なところもあるけど、モンスターに会いやすいのが難点ね」
「でもみんなと一緒の方が安心できるね、楽しいし」
「ま、ね」
のんびりと話しながら待つ彼らの元へ、
「っだあああああ!」
ディザが駆け戻ってきた。
「ど、どうしたの、ディザ」
「埴輪……」
幾分据わった目でディザがうめく。
「は?」
「埴輪がズラッと行進してた」
「……色は」
「銀」
その会話に他の仲間の顔色がひいていく。恐らく自分も彼らと同じ状態なのだろうとルナンは思った。
埴輪。銀。それはひどく危険な組み合わせの言葉である。
「それは、あのイリーディアにいた奴かの?」
ライゼルが珍しく嫌そうな顔を隠さずに聞くと、ディザが頷いた。
ライゼル自身は直接戦ったことはほとんどないが、ルナンたちが苦戦しているのを何度か見たことがあった。
「あんな大群見たことねえ」
「そりゃあ……何か考えないと駄目ね」
ユミの言葉に、全員で丸くなって対策を練り始めた。


サヴィアーが遺跡の途中で見つけた案内図を書き写したものを広げる。
「下の階は、変な構造をしてるんですよね」
「ふむ」
「楕円形のつくりで、この階段を下りたところが楕円の先端、反対側の先端に下りの階段があるようです」
楕円の両隅にUP、DOWNとだけ書かれた簡単な地図を指差しながらサヴィアーが説明した。
「何を考えて作ったのかしら」
「不思議ですよね」
「だが、これだけシンプルだと隠れながら進むってわけにもいかないぜ……この大人数だし」
「それなら、強行突破しかないわね」
ユミが指で楕円のカーブをすっとなぞる。
「とにかく、まっすぐ全速力で階段へ駆け抜ける。追いつかれたら呪文で牽制して、ひたすら逃げる」
「それが一番かのう……というか、それしかなさそうじゃな」
「挟み撃ちされたら?」
「後ろの奴らの動きを止めて、先の奴らをなんとかして切り抜けるのがいいだろ。
 一気に全部倒すのはきついが、道を開けるくらいなら俺が何とかするぜ」
ディザの言葉に、ルナンが頷く。
「それなら、後ろの奴らへの牽制は私がやるわ」
「よし、いくぞ。名付けて作戦『埴輪道』!」
「名付けなきゃいけないの、それ」
ユミが冷静に言い放った。


廊下をできるだけ早く走り抜けるために、それぞれに補助魔法をかけあう。
「エクステンド!」
「アクセラレイション」
ありったけの強化をほどこして、一行は階段が終わったところにある扉を開けた。
「行くよ!」
そして、下への階段を目掛け、一斉に駆け出した。
瞬間、後ろから寒気がするようなプレッシャーと物音を感じる。ルナンは息を呑んでなおも駆けた。
後方への呪文での牽制はルナンが受け持ったため、殿をつとめている。手強い魔物に背を向けて走るのは、
やはり恐ろしいものがある。
背中がぞくぞくするのを抑え、とにかく走った。
埴輪の掲げる刀に反射する光が、目に入る。
(来たっ!)
と思う間もなく、埴輪たちはルナンたちをものすごいスピードで抜き去っていった。
「…………え?」
慣性で足は止まらないが、思考はぷっつりと止まっていた。
埴輪はそのまま猛スピードで進んで、ルナンたちが目指す階段まで到達すると、ぴょこぴょこと飛び跳ねた。
無表情なはずの埴輪が、どことなくうれしそうに見える。
「……か、駆けっこ?」
思いついた言葉はそれだった。埴輪たちはルナンたちを抜き去って満足したのか、わらわらと去っていった。
「俺たちの苦労って……」
「先、急ぎましょ」
どうにもならない疲労感を背負って、ルナンたちは階段へと歩を進めた。必要ないくらいゆっくりと。


階段の先の重々しい扉をあけると、そこは赤い絨毯の敷かれた部屋であった。部屋の中央に一体の像が立ち、
壁際には本棚が並んでいる。一瞥したところでは、武器や防具に関しての本が多いようだった。
「ここが最奥……?」
部屋には入り口のほかに扉も階段も見当たらない。
「そうみたいだな」
「宝物って、もしかして、この像?」
ルナンが辺りを見回していると、ナックが中央へ歩み寄り、像を見上げた。像自体は見た限りありふれた、
マントと冠をつけた若者をかたどった石像のようだった。
「ただの石像みたいだけど」
「あ、足元に何か書いてありますよ」
どれどれと像の周りにみなが集まる。サヴィアーが明かりを像の足元の石板に近づけた。


  彼の王 竜の眼差しを持ち
  右手にこの大陸を掲げ
  左手に生命を守る

  すべてを手に入れるため
  天の月へと手を伸ばすも
  手に入れたのは欠片のみ

  人の程を知らねばならぬ
  王の重みも知らねばならぬ

  常に王者たれ 常に人であれ
  できぬものは去るが良い


「……これは……何?」
「王者の心得……みたいなものでしょうか?」
ルナンが問いかけると、あまり自信のない様子でサヴィアーが答えた。その目は石板に集中している。
同じく石板へ目を向けていたユミが首をかしげて、
「でも、こんなところで意味もなく王の心得が書いてるとは思えないわ」
「つまり?」
「これが何かの意味を持っている、ってことね。当然、宝物に通じるような」
ユミの言葉にディザがうんざりとした表情を見せた。
「謎解きってやつか? 俺はおりるぜ」
「ディザ、ちょっとは考えようよ」
「向き不向きがあるだろ」
早々にギブアップ、というより敵前逃亡を宣言したディザだったが、
「でもここ、他には本しかないわよ」
ルナンの言葉に固まった。その通り、像と本棚以外には大して見るべきところもない部屋だった。
「しかしここの本、武器や防具の本ばかりじゃのう」
「図鑑が多いから、意外と面白いかもしれないわ」
石板をちらりと見たあと、本棚を回っていたライゼルとシンディが伝える。手には数冊本を持っていた。
「ルナン、あなたのルクスゼアも載ってる」
「ほんと?」
呼びかけられたルナンは二人の方へ駆け寄った。
書物という言葉に固まっていたディザも、武器や防具という話を聞いて、そちらに興味をひかれたようだった。
「へえほんとだ、すごいのね」
「なになに、『何者をも斬らぬ剣、フルムーンソード……』役に立つのか、これ」
「あたしも見せて!」
今度は本の方へとみなが集まり、像の石板に注目するのはユミとサヴィアーのみになった。


何度読んでも変わらない、意味のあるようなないような文章。
「なにかひっかかる気がするんですよねえ」
「これだけを読んでもわからない謎かしら。今までの階で特にヒントになるものなんて、なかったわよね……」
「まさか、さっきの階の埴輪?」
「どんなヒントよ」
冷めた突っ込みで返され、サヴィアーは肩をすくめた。
それを見やって、ユミはまた像へと向き直った。それなりに立派な像ではあるが、繊細な細工とは言いがたい。
「あら?」
腕の部分に違和感を見つけ、ユミは像に手を触れた。
「なにかありました?」
「見て、動くわ」
像の腕をユミが動かした。
元は緩やかな気を付けの姿勢だった像だが、よく見ると腕が可動式になっていた。それをユミが動かしたことで、
像はちょっとしたファイティングポーズをとっている。腕の先にある指は中途半端な形で握られていた。
「これ、何か持たせられるんじゃないかしら」
「そうか……!」
サヴィアーは石板をもう一度食い入るように見つめた。そして、納得したように大きく息をついた。
「ユミさん、わかりました」






ユミとサヴィアーが他の仲間を呼び、サヴィアーが石板の謎を解説し始めた。
「この部屋、やたらと武器や防具に関する本が多いですし、魔物も武器防具を持つ種類ばかりだったでしょう?
 それがヒントだったんです」
「なるほど?」
「つまり、いくつかの言葉が、ある武器や防具を示していたんです。『竜の眼差し』がドラゴンアイズ、
 右手の『この大陸』は大剣フィルガルト、『生命を守る』のがライフディフェンダー」
「ということは、最後の手に入れた月の欠片っていうのは」
「ピースオブムーン!」
にっこりとサヴィアーが笑う。 「で、それを……」
「ええ、この像に装備させればいいはずです」
一通りの解説が終わると、サヴィアーは安心したように息をついた。
「しかし、よかったですね、全部揃っていて」
ルナンたちのパーティはすでにそれらのアイテムを全部手にしていた。それぞれ準備して、像へと向きあう。
「これは知らなきゃ、わかんないでしょうね」
「知っているっていうことも、試練みたいなものなんでしょうか」
言いながら、装備品を一つずつ像に与えていく。
最後にフィルガルトを石像の右手に持たせると、

ぴしり。

石像にひびがはいった。
「え、これ、大丈夫?」
「た、たぶん……」
ぴしり。ぴしり。ひびはどんどん大きく、深く分かれていき、やがて――。

がらがら……

像は跡形もなく崩れていった。その後には、先ほどの装備品に守られるようにして、立派な台座が現れていた。
そしてその上に。
「これは……」
石像の中に隠されていたもの、それは立派な冠だった。黄金の土台に、大きな宝石がいくつも埋め込まれている。
どの部分にも精緻な意匠が施されており、それは眩いばかりの輝きを放っていた。
神々しいまでの美しさ。冠を飾る台には、「インペリアルクラウン」という銘が刻まれていた。
「すっごい……」
「王の証ってやつか」
「でも、これは……」
ルナンがためらうように言いかけ、その後をユミが言い継ぐ。
「確かに、これはちょっと手を出し辛いわね」
「王者の証ということなら、大道芸人には少々重いのう」
「見られただけで、眼福というやつですねえ……」
口々に言うパーティの面々に、ルナンは口を開いた。
「……これはもう、そのままにしておこっか?」
7人そろって、少しだけ苦笑しながらも、異議はないようだった。
それだけその冠には、おいそれとは手にできないような雰囲気があったのだ。
「そうね。さっきの装備品だけ返してもらいましょうか」
「骨折り損、だけどね〜」
「ほんとにな!」
苦労して遺跡を降りてきたことへのお互いへの労わりと、それなのに手ぶらで帰ることを選ぶという選択に、
パーティの中に笑いがはじけた。
「じゃ、帰りましょう!」
「こっち、像が崩れたら転送装置が出てきたわ」
シンディが見つけた転送装置に、全員が乗り込み……一行は遺跡を出た。


ドーグリでは村長に質問攻めにあったが、埴輪のせいで先に進めなかったということでお茶を濁した。
「それなら、『あの7人でも制覇できなかった大迷宮!』として売りだすべかなあ」
「商魂たくましいわね、村長……」
ドーグリ北の山の遺跡がどこまで有名になるか、それは数年待たねばわからぬことだ。



*Shouさんへのメッセージ*

すばらしいゲームをありがとうございました。
ここまで隅から隅まで堪能し、それに飽き足らず二次創作までして楽しませていただいたゲームは他にありません。

暑苦しいくらいの愛をこめて。

 
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