+gather again -エンディング後の話+ クレイシヴを倒してからもう随分だった春の日。 ディザは珍しくも机に向かい、紙にシャープペンシルを走らせていた。 魔術学校でも禄に勉強せず、近頃も文字とは無縁の生活を送っていただけに、真面目にペンを取って文章を書くのは本当に珍しい。 彼にとって元来机に向かう等と言う行為は三度の飯の数万倍は嫌いだったが、今回はそうも言ってはいられなかった。 机の上には真新しい便箋の束。 何れもクレイシヴと全ての決着をつけた戦いを最後に居なくなった彼女の髪のような、透き通った朱の便箋だ。 「あー、また間違えた・・・」 溜息を一つつき、大きく体を引き伸ばし、椅子からだらんと姿勢を崩す。 便箋の六行目には「開催」と書く筈が、律儀にも「間催」と記されている。 ゴミ箱には書き間違いによって捨てられる事と相成った便箋が四枚、丸められて入っている。 今から約五分前、四枚目の便箋を適当に丸めて放り出した所でボールペンを使うのは諦め、シャープペンに取り替えた。 短気な自分が其処までボールペンで書こうとしただけでも恩の字だ。 それに、そのままやっていては日が暮れても終わりそうに無かったし、それより先に雑貨屋で買ってきた三十枚組みの便箋が無くなりそうだった。 ノーステリアなんかではワープロとかいうハイカラな物も流行っているそうだが、そんな物はこのアルシアの何処を探しても在りはしない。 在った所で自分に使いこなせる代物であるかというと大分自信が無かったのではあるが。 それにしても、どうしても椅子にじっと座っているのは好きになれない。 本当に魔術師の子供かと思われるかも知れないが、これは幼い頃からの性分なので仕方ない。 そんな自分に負い目を感じたことは無いが、こんな時だけはずっと机に齧り付いて居られるサヴィアーなんかを羨ましく思ったりもする。 今現在血眼になって手紙を書いているのも自分の思いつきによるものなのだが、それにしても他に手段があるのではないかと思ってしまう。 「住所が分かるのに、何で電話番号は分からないのか・・・」 だから、そんな事を呟いてみた。 本来なら今手紙を書いている人物の住所なんてのは知る由も無い情報だ。 住んでいる町の名前ぐらいは一部を除けば分かるのだが、番地のような詳しい事までは分からない。 それを自分が知っているのは、他ならぬ妹の協力のお陰だった。 自分の妹──ナックは、自分と違って生粋の魔術師だ。 彼女に言わせてみれば、よく見知った人の住所を魔法で調べるぐらいは朝飯前らしい。 流石自分の妹、とも思ったが、よく考えてみれば只単に自分が真面目に勉強しなかった賜物であるようにも思う。 それでも、人には得手不得手があるだろうと言うことで、自分が殆ど魔法を使えない事はもう割り切っている。 その分剣の扱いでは自分に適う奴なんて殆ど居ないだろうと自負している。 もう最近はあまり剣を使う機会も無いのだが。 ふうっ、と息を大きく吐き、気合をもう一度入れ直す。 そして、右手にアルシアの何処かの福引か何かで貰ったシャープペンを握りなおすと、再び椅子にしゃんと座った。 六行目には相も変わらず「間催」が鎮座している。 一先ずそれを書き直そうとして、シャープペンに変えたのはいいものの、消しゴムを探し忘れていた事に気付いた。 また少し離れた電話の横にあるペン立ての所まで行くのも面倒だったので、シャープペンの芯を入れる方を見てみた。 しかし、其処にあるのは無情にもキャップだけだった。 「あぁー、面倒くせー」 と、誰も見ていないのをいいことに悪態を突きながら椅子から立ち上がる。 だが、それとは裏腹に気分は非常に高揚していた。 この手紙を送ればきっとあの頃の気分に戻ることが出来るだろう。 この手紙を送ればきっと楽しい時間を過ごすことが出来るだろう。 この手紙を送れば、きっと、彼女の事を少しは手繰り寄せられるかも知れない── 確証も無いのに、何故かそんな事を思っていた。 結局全ての便箋に手紙を書き終えたのは始めてから二時間も経った頃だった。 慣れない作業は本当に気を使う。 普段は肉体的な疲れしか体感しないこともあり、尚更こういった事は神経を磨り減らした。 文章も中々思い浮かばず、何度も何度も筆記ミスを犯したりと、文字通り四苦八苦といった様相だった。 しかし、意外とそんな作業の中にも達成感もあった。 これは只の予想だが、彼が学者を目指しているのもこんな理由なのではないだろうか、と何となく思った。 「さて」 と、大きく屈伸をして立ち上がった。 便箋だけでは手紙は送れない。封筒と切手も買っておいた筈だ。 さて何処に置いたものか、と考え込みそうになったが、視界の隅に映ったものにそれは妨げられた。 視線を合わせてみると黄土色の封筒と切手が四枚、それぞれ整頓され整然と置かれている。 恐らくは先程ナックにジュースの差し入れを貰った時に一緒に持ってきてくれていたのだろう。 流石我が妹。細かい所まで気が付く。 早速有り難く封筒を一つ取って、宛名を書き始めた。 文章を考えて只々文字を列記していく作業も疲れたが、文字の配置と大きさを考え、歪にならないようにしていく作業もまた難儀なものだ。 宛名を書く封筒は四つだけだったので直ぐに終わるだろうと高をくくっていたのだが、これが意外にもそれなりに手間取る作業だった。 気を抜くと文字が右へ左へ蛇行してしまい、直ぐに書き直しと相成る。 しかし、宛名を書いている途中で新しい発見が二つあった。 と、言っても住所に関する事だけなのだが。 一つ目に、彼が定住地を持つようになっていた事。 放浪の大道芸の旅は暫く休止といった所だろうか。 あれを大道芸と言っていいのかは甚だしく疑問ではあるが。 もう一つは、彼がクレスフィールドに住んでいる事。 ノーステリアの親とは和解したようだし、元の家に戻ってもいいと思うのだが。 そこは彼なりの深い思慮の結果があるのだろう。 意外と親と離れたかっただけなんていう理由のような気もするが。 そんな事を思いつつ、四つの封筒に宛名を書き入れた。 封筒自体はよくある黄土色の素っ気無い物だったが、自分にとってはなんだか新鮮に感じられた。 息を大きく吸い込むと、そんな封筒独特の臭いが胸一杯に広がる。 そういった瑣末な事一つ一つが新しく感じられ、事実それは気分的な問題ではなく殆ど体験したことの無いものだった。 後は中に便箋を入れて封をし、切手を貼るだけだ。 どちらを先にするか思案したが、とりあえずは便箋を先に入れてしまうことにした。 と、いう事で朱色の便箋を一枚手に取り、縦に四つ折にした。 そしてそれを封筒に滑り込ませ、封筒のシールの台紙を引き剥がし、封をしていく。 文字を書く作業に比べれば随分と簡単な作業だった。 この程度の作業になら然程苦にもならない。 椅子に座っているだけで苦になるというのもまた事実なのだが。 とりあえず封筒を四つ作りきり、切手も貼り、手紙として完成させてから残った一枚の朱色の便箋を手に取った。 「これは・・・、そうだ、二階の出窓の所にでも置いておこう。」 そう言って、二階へと歩み始めた。 他の四枚の手紙もそうだが、どうかこの手紙が彼女の元へ無事に届きますように。 「来月の初めの日曜日にでも、皆を呼んでパーティーみたいなのをやりたいんだけど、どう思う?」 兄ちゃんに行き成りそう話を持ち出された時は、本当によく分からなかった。 その日は大陸教会の方から休暇を貰い、家でのんびりと過ごしていた。 こういった時にアルシアの雰囲気は本当に気持ちを緩める事が出来る。 アネートやクレスフィールドの賑やかさも悪くは無いけど、やはり一番落ち着くのはアルシアのこの家だった。 小鳥の囀りや風の戦ぐ音なんかは、都市では感じられない、この場所だけの空気だ。 そんな生気を感じながら、座椅子にもたれて読書を嗜んだりする。 それだけでどんな疲れからも癒される事が出来た。 アルシアは不思議な町だ。 何がある訳でも無いのに、何もかもから解き放たれる事が出来るのだから。 最近はアルシアへ移り住む人も増えているらしい。 その人達も、きっとそんなアルシアの魅力にとりつかれたのだろう。 そんな事を考えていると、居間の方から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。 この家に居るのは自分と兄ちゃんしか居ない。 両親はもう居なくなっている。 偶に寂しさを感じることもあるけど、もう自分の中では整理をつけたつもりだ。 いつまでも過去の事を悩んでいても仕方ない。大陸教会でそんな事を言われたこともあった。 さて、いつまでも考え事をしている訳にはいかない。 呼ばれているからには早く行かないと。 「うん、今行くー!」 そう居間に聞こえるように叫んで座椅子から体を起こした。 至福の境地へ誘ってくれる座椅子が名残惜しくもあったが、それを抑えて居間へと向かった。 居間へ押戸を勢い良く押して入ると、兄ちゃんが予想もしなかったような真面目な顔で座っていた。 「ちょっと、話があるんだ」 自分が少し怯んで扉の前でぼうっと立っていると、兄ちゃんがいつものトーンで声を掛けて来た。 右手で彼の向かいの席を指し示している。 どうやら其処に座れという事らしい。 一先ず自分が促されるままその席に座ると、徐に話を切り出された。 そして場面は冒頭に戻る訳である。 しかし、本当によく分からない。 クレスフィールドでの祭りはつい3,4ヶ月前にあったばかりだし、さして重要な報告事項が溜まっている訳でもない。 何よりその後も一ヶ月に一度決まった日に顔合わせをしているし、それ以外の日にも偶然町で見かける事もある。 それに、皆の顔が見たくなっただけであれば別にパーティーなんて開かなくてもいいだろう。 でも、事はどうあれ皆に会える事自体は嬉しかった。 「んー、別に良いけど、どうして?」 それで、当たり前の疑問を投げかけてみた。 そうすると、兄ちゃんはこんな言葉を投げかけてきた。 「来月の初めの日曜日、何月何日か知ってるか?」 考えを巡らせてみた。 今日が二週目の水曜日だから、逆算して・・・ 等と考えている内に、思い当たる節が一つ出来た。 そういえば、来月は。 その上、その日は。 大事な大事な、あの日だった。 「もしかして、ルナンの誕生日だから?」 その事を聞いてみる。 兄ちゃんの事だから十中八九その理由でいきなりパーティーを開こうなんて言い出したんだろう。 突拍子の無い事に見えて、実はその奥に思慮が隠されている。 幼い頃から何度も見てきた、兄の優しさだった。 「ん、まぁ、そうなんだけどな」 はにかみながら答えられる。 そういう事であれば自分も反対する理由は何一つ無い。 「うん、分かった。じゃあ飾りつけもして、うんと綺麗なのにしよう!」 屈託の無い笑顔で、そう言った。 ポストに入っていたその手紙の差出人を見た時、意外なのと共に訝しく思った。 彼が態々手紙を出すなんてどういう風の吹き回しだろう。 そう思いながらその封筒を家へと持ち帰った。 私の住む家に手紙が来ることは少ない。 広告や宣伝といった類の物もあまり来ない。 それは知り合いが少ないということもあるのかも知れないが、定住を始めたばかりで住所を知っている人が少ない という理由の方が大きいだろう。 その筈が、何故か突然魔術師でもない彼から手紙が来るのだから、悪寒めいた物さえ覚えた。 が、冷静になってよく考えてみると、彼には妹が居た。 自分の住所を調べたのも恐らく彼の妹、ナックだろう。 そう思いつくと合点がいった。 ただ、彼が自分に手紙を出してきた用件に関しては今ひとつ納得のいく要因が思い浮かばなかったが。 とりあえず、その要因を探るためにも、椅子に座って手紙を開けてみる事にした。 封筒はキッチリとシールで封がされていた。 それを一気に破ると、中には朱色の便箋が一枚、入っていた。 「なんだか、ルナンを思い出させるわね・・・」 何故だかそんな事を思っていた。 白色の紙を見た所で自分の姿を思い出す人は、私と関わりの多い人でも殆ど居ないだろうが、 この鮮やかな朱色は何故か彼女の姿を彷彿とさせた。 そういえば、来月は彼女の誕生月だった。 ルナンではなく、クレスティーユが生まれた月。 それから何千年もの時を経て、ルナンが生まれたのだ。 そんな事に思いを馳せつつ手紙に目を通してみると、考えていたこととまるで同じような事が書かれていて思わずニヤニヤしてしまった。 私の普段の笑みはなんだか畏怖されているようだが、今の笑みは決して嫌な物ではなかったと思いたい。 しかし、本当にあの男らしい気遣いだ。 だからこそ、彼女の事をもう一度思い出せたのだろう。 春の陽気に恵まれた、眠気を誘うような麗らかな日。 ドーグリの為に尽くしていくと決めた自分は、今日も村の管理の手伝いをしていた。 ドーグリは特に規律付けされた制約がある訳ではないらしく、村長に村の自治に携わりたいと申し出た所、あっさりと認められた次第だった。 それもそれでどうかと思うのだが、結果として村興しに一役買える事となった。 意外と自分はこういった仕事も得意としているのかも知れない。 故郷の役に立てるという事もあるのだろうが、毎日やり甲斐のある日々が続いていた。 今日もその手伝いから帰って来ると、郵便受けに一通の飾り気の無い封筒が入っていた。 ドーグリに関係する事かと思い、差出人を確認したが、そこには意外な人物の名前が書かれていた。 「・・・またどうして、彼から」 とは言ってみたものの、別に、いや、全く嫌では無かった。 寧ろあの時間を共にしたパーティからの手紙ならば、誰からのものでも心が躍っただろう。 しかし、それにしても彼が自分に一体何の用だろうか。 態々手紙を送ってくるぐらいなのだから、重要な用事なのだろうが。 そして、その手紙を自宅に持ち帰り、読み終えた。 いかにも文を書くことに慣れていないようなたどたどしい印象を受けたが、それでも彼の思いやりは伝わってきた。 だが、こうした事が行われるのはある意味予想通りだった。 彼の事だからルナンの誕生日なんて忘れる筈も無いと思っていたし、きっと彼が行わなくても別の誰かが似たような事を発案していただろう。 そんな温かみのある人達と知り合えることが出来て良かった。 今日は手伝いが長引いて帰宅が遅くなってしまった。 明日に備えてもう今夜は寝ておこう。 アルシアに向かうとき、村長に胸を張って休暇を申し込めるように、今の内にドーグリの為に一生懸命になろう。 マークスのダワン石採掘場。其処が戦いが終わった後の自分の職場となった。 勿論今でも芸は続けているが、以前のように放浪したりといった事は無くなり、休日にマークスやノーステリアでゲリラライブをするのが常となっている。 芸の道を副業に回し、この職場に就いたのも、以前自分が犯した過ちを償う為だ。 町長とはもう和解出来たし、これからは自分の罪を少しずつ返上していこうと思う。 町長はもう過去の事はいいと言ってくれたが、それでは自分の気が済まなかった。 一度失敗すればより良い事をやって巻き返す。お笑いにおいても似たようなものだ。 それに、別に罪を償うだけをいう理由ではなく、単純に体を動かすのが楽しいという事もあった。 勿論芸が一番好きなのは変わらないが、体を動かす事がいいアイデアの礎となる事もしばしばあった。 その思いついたネタを休日にマークスやノーステリアで披露するのである。 こんな生活を送っていると、なんだか以前よりも充実した暮らしを営んでいるような気もした。 だから、ダワン石採掘場で働くのも嫌いでは無かったし、きっと自分にとってもそれが一番良かったのだろう。 西の空が赤く染まっている。 ウェストデザートの地平線に沈もうとする夕日は中々に雄大な景色だ。 心なしか芸のウケも他の町より良い気がするし、そんな側面からもマークスという町は好きだった。 ただ一つ、風が強い日は容赦なく体に砂が降りかかってくる事意外は、だが。 今日もよく働いた。 此処で働き始めてから二ヶ月になるが、毎日行っても仕事場から家路につくまでの道のりは達成感に満ち溢れていた。 それこそが自分がいつも追い求めている感触だ。 そうこうしている内に、自分の家が見えてきた。 必死に戦ってきたあの冒険の意外な副産物によって、こんな家も買うことが出来た。 その金は、賞金稼ぎをやってきた頃よりも、神聖なものに感じられた。 いつものように郵便受けを見る。 その中には一通の封筒が入っていた。 「はて、どちら様からだろうか・・・?」 その封筒を取り出して差出人を見てみると、生死を共にした剣士の名前が記されていた。 家にその封筒を持ち帰り、封を切る。 中に入っていた便箋を読んでみると、何故か温かい気持ちになった。 あの若者は、自分が若かった頃よりも、ずっとしっかりした心を持っている。 この分なら、弟子の兄としても不足は無いだろう。 「やりました・・・!遂に・・・!」 彼女の事を思い出してからずっと、ユミさんと二人三脚で続けてきた研究。 突然成果を見せてあげた方が皆驚くだろうという事で、他のメンバーには一切の次第を伝えていなかった。 その研究がついに成功したのだ。 場所はクレスフィールドの自宅。 研究するには中央山脈にも近く、古代図書館が歩いてすぐ行ける距離にあり、何より彼女の育った土地であるこの 場所が適しているだろうと言う事で、戦いが終わった後の資金で此処に家を構えたのだ。 今更ノーステリアの実家でずっと暮らすのも気分が乗らない話であったし、クレスフィールドに住む事に懸案事項は一切無かった。 ただ、故郷を離れるのはやはり少し寂しくはあったが。 だが、この際そんな事はどうでもいい。 只管労力を費やしてやってきた事が、今遂に成功したのだ。 事の次第はこうだ。 クレイシヴを倒した後、学者達の間でイリーディアの研究が進んでいった。 それは自分にとっても例外ではなく、ユミさんと共にイリーディアを隈なく探索していた。 その一番の目的は学者としての研究もあったが、彼女を取り戻す方法が無いか探す事だった。 初めの頃は手がかりが見つからず、投げ出しそうにもなったが、探索を始めてから二ヵ月後、気になる文献を発見した。 それにはどうもエーテル体──精神体が憑依する事によって形が変化し、その精神の肉体として機能するものの調合方法が記されていようだった。 これさえあれば彼女を取り戻せるかも知れない。 ただ、彼女の精神体が未だ存在しているとの確証は無かったが、それに賭けるしか無かった。 それから先は兎に角ユミさんと薬品の調合に明け暮れた。 それが成功したのが五日前。 その後はエーテル体に彼女以外の精神体が憑依出来ないように細工し、なんとか彼女が入ってきてくれる事を祈ったのだった。 その結果。 今現在、彼女、ルナンさんは自分の隣で寝息を立てて寝ていた。 どうも憑依した後は起き上がるのに時間がかかるらしく、目覚めるのにはまだ三日程度かかるそうだ。 そういえば先日、ディザさんからの報せを受け取った。 それに彼女を連れて行けばそれはもう皆驚くだろう。 そんな事を考えて頬が緩んでいる自分に気付いた。 来月の日曜日が楽しみだ。 そして、パーティーの日。 アルシアのディザとナックの自宅はカラフルな飾り付けが施され、自然豊かなアルシアには不似合いな程だった。 天気は雲ひとつ無い快晴。まるで彼女との再会を予感させるようだった。 待ち合わせ時間は十分後だった筈だが、皆勇み足なのかもう全員席についていた。 それで、 「それでは、ルナンの誕生日パーティーを始めます!」 とディザが言い、開会の辞にしようとクラッカーを引こうとした刹那。 誰も居ない筈の扉の前に、彼女が居た。 あの日からずっと探していた、見紛うこと等有り得ない姿。 探し始めたのは数ヶ月前にも関わらず、十年来の追い求めたものを見つけたような錯覚に陥った。 その赤い髪も、水色のバンダナも、生まれたときから知っているような気がした。 要は混乱していたのだ。 だからなのか、彼女を見て最初にかけた言葉もこんなものだった。 「ルナン、誕生日おめでとう」 作:hr http://hrhara.tuzigiri.com/ 三作SSを書きましたが、最後はエンディング後の話で。 クレスフィールドでの祭り以降はあまり語られませんでしたが、どうか幸せな後日談であって欲しいですね。 最後になりましたが、Shouさん、今までお疲れ様でした。 izeefでの活躍も期待しています。 Back